水溶性食物繊維はこんなにも大切な栄養素1

もち麦

◆ 食物繊維の重要性


食物繊維は、第6の栄養素と言われるとても重要な栄養素です。
まずは、この文章からご紹介させていただきます。

食物繊維摂取量は、数多くの疾患と有意な負の関連が報告されている稀な栄養素


今からご紹介するのが、厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2020年版(p153)」に書かれている内容です。

食物繊維摂取量は、数多くの生活習慣病の発症率又は死亡率との関連が検討されており、メタ・アナリシスによって数多くの疾患と有意な負の関連が報告されている稀な栄養素である。

代表的なものとして、総死亡率、心筋梗塞の発症及び死亡、脳卒中の発症、循環器疾患の発症及び死亡、2型糖尿病の発症、乳がんの発症、胃がんの発症、大腸がんの発症などがある。

例えば、食物繊維をほとんど摂取しない場合に比べて、20 g/日程度摂取していた群では心筋梗塞の発症率が 15% ほど低かったと報告されている。

また、メタボリックシンドロームの発症率との関連を検討したメタ・アナリシスも存在する。これらの報告は、総合的には食物繊維摂取量が多いほどこれらの発症率や死亡率が低くなる傾向を認めている。

2型糖尿病の発症率との関連を検討したメタ・アナリシスでは、20 g/日以上摂取した場合に発症率の低下が観察されており、閾値としてこの値が存在する可能性を示唆している。

血中総コレステロール及び LDL コレステロールとの負の関連も報告されているが、これは水溶性食物繊維に限られるとされている。

また、ヨーロッパで行われた大規模コホート研究では、食物繊維摂取量と体重増加の間に負の関連が観察されている。

 食物繊維摂取量が排便習慣(健康障害としては便秘症)に影響を与える可能性が示唆されている。食物繊維摂取量と便秘症罹患率との関連を横断的並びに縦断的に検討した疫学研究では、便秘症の罹患率、発症率及び排便頻度と食物繊維摂取量との間に負の関連を認めたとする報告がある。

その一方で、両者の間に関連を認めなかった研究も存在する。


これは、すごい内容です。

「食物繊維摂取量は、数多くの生活習慣病の発症率又は死亡率との関連が検討されており、メタ・アナリシスによって数多くの疾患と有意な負の関連が報告されている稀な栄養素である。」

食物繊維を充分量摂取していると、生活習慣病の発症率が低くなるという報告が世界でされているということです。書かれている疾患名は、読んでみての通り

・総死亡率
心筋梗塞の発症及び死亡
・脳卒中の発症
・循環器疾患の発症及び死亡
・2型糖尿病の発症
・乳がんの発症
・胃がんの発症
・大腸がんの発症

体重増加
・便秘症

しかも、これらの疾患に負の関連が報告されている「稀な栄養素」という表現が使われています
こういう報告がしっかりされている栄養素は、他には「稀」ということです。
いかに食物繊維が大切かが理解できます。

◆ 食物繊維とは?


食物繊維とは、食べ物の中に含まれ、人の消化酵素で消化することのできない成分のことです。
水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に大別できます。
どちらも大切な食物繊維ですが、分けて考える必要があります。

上記の文章中に「血中総コレステロール及び LDL コレステロールとの負の関連」に関しては、水溶性食物繊維に限るとされています。不溶性食物繊維と水溶性食物繊維は働きが違うのです。

不溶性食物繊維・・・水に溶けない食物繊維


●セルロース
●ヘミセルロース
野菜や穀類の外皮。大豆、ごぼう、小麦ふすま、穀類、豆類
●リグニン
小麦ふすま、穀類、完熟野菜類、豆類、ココアなど
●キチンなど

・腸の蠕動運動を盛んにする。
・水分をかかえ込んで容積を増やす
・便の量を増やして便の排泄を促す
・便が増えると、大腸が刺激され、排便がスムーズになります。
・有害物質を吸着させて、便と一緒に体の外に排出する
・腸をきれいにして大腸がんのリスクを減らす
・発酵性は低い

水溶性食物繊維・・・水に溶ける食物繊維


●βグルカン・・・大麦など穀類
●ペクチン・・・熟した果物
●アルギン酸・・・昆布やワカメなど海藻類
●イヌリン・・・キクイモ、チコリ
●ポリデキストロース、難消化性デキストリン、グルコマンナン、グアーガム、アルギン酸など

・水に溶けやすく、水に溶けるとゼリー状に
・粘着性があり胃腸内をゆっくり移動する
・小腸での栄養素の消化吸収をゆっくりにする
・糖質の吸収がゆるやかになり食後血糖値の急激な上昇を抑える
・吸着性がある。
・コレステロールを吸着し体外に排出。血中のコレステロール値も低下させる。
・ナトリウムを排出する効果もあるので、高血圧を予防する効果もある。
・腸内細菌のエサになる。

食物繊維の摂取量


日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、1日の目標量は、成人男性で約20g以上成人女性で約18g以上とされています。
実は、理想をいうと 24g/日以上 だそうです。
もしくは、14g/1000kcal 以上。2000kcal摂取の場合、28g/日です。
実現の可能性は低いということで現実的な目標量になったそうです。

では、実際の摂取量はどれだけかと言いますと。
現在の日本人の摂取量の中央値は、
男性(50~64歳)14.00g
女性(50~64歳)13.87g
だそうです。約10g以上 下回っています。しかも、
男性(30~49歳)12.16g
女性(30~49歳)11.57g
もっと低いです。中央値ですから個人差はあると思います。

食物繊維の摂取量と
生活習慣病


「日本人の食事摂取基準 2020年版(P158)」によると、このような文章があります。

生活習慣病の重症化予防

食物繊維が数多くの生活習慣病の発症予防に寄与し得ることは前述のとおりであるため、食物繊維の積極的な摂取がそれらの疾患の重症化予防においても重要であろうと考えられる。(中略)

また、こうした結果は結果は、糖尿病患者を対象としたHbA1cの改善を指標とした介入試験のメタ・アナリシスでも同様であったことから、こうした指標の改善が関連する各種生活習慣病の重症化予防においては、食物繊維の積極的摂取が推奨される。

どの程度の食物繊維摂取量を勧めるかについてはまだ十分な結論は得られていないものの、前述のメタ・アナリシスでは、観察研究も含めて、25~29g/日の摂取量で最も顕著な効果が観察されたと報告している。

これは、現在の日本人成人の食物繊維摂取量に比べるとかなり多く、目標量より多い。したがって、少なくとも目標量を勧めるのが適当であると考えられる。

つまり、成人病の重症化予防のため、食物繊維を25~29g/日摂取すると顕著な効果があるけれど、それは現在の日本人にとって難しい。少なくとも、成人男性で約20g以上、成人女性で約18g以上を、まずは摂取しましょうという内容です。

食物繊維を食べる量のひとつの考え方になると思います。25~29gを目指しましょう。意識的に積極的に食べるということです。

◆ 食物繊維と腸内細菌

水溶性食物繊維に注目


不溶性食物繊維、水溶性食物繊維の説明に、

●不溶性食物繊維・・・発酵性が低い
●水溶性食物繊維・・・腸内細菌のエサになる

とあります。
この「発酵性が低い」というのは、「腸内細菌のエサになりにくい」という意味です。
注目したいのが、水溶性食物繊維の「腸内細菌のエサになる=発酵性が高い」という部分です。

人の細胞の数より多い
腸内細菌


腸内細菌、腸内フローラという言葉を聞いたことがある人は、多いと思います。
人の体内には100兆個ともいわれる細菌が住みついています。
37兆個ともいわれる人の細胞よりも多い細菌が、人の表面に存在しているのです。
表面とは、皮膚や腸内のことです。

人はこの「腸内細菌」と共同して身体の健康を保っているとされています。
「腸内細菌」で、身体の健康のほとんどを説明することができる、とも言われています。

腸内細菌は、
食物繊維を食べて
短鎖脂肪酸を産み出す。


「腸内細菌」は、お腹の調子を整えるだけの働きではありません。とても重要な存在なのです。
腸内細菌の数は、1000種類、100兆個です。
この膨大な数の腸内細菌は、「水溶性」食物繊維などのエサを食べて、代謝物を出します。この代謝物を短鎖脂肪酸(SCFA)と言います。酪酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、乳酸などです。
この短鎖脂肪酸が、身体にとってあらゆる「良い働き」をします。
具体的に、免疫改善、抗炎症、糖代謝改善、抗肥満など、あらゆる面での影響があるようです。
人間の体は、この腸内細菌と共同して健康を保っている、と言っても良いのです。

腸内細菌のエサ
マック (MACs)


腸内細菌も食事をします。
腸内細菌のエサは、わたしたちが食べた物だけです。
だから、「食」と言うのは、自分のためだけに食べるものではなく、腸内細菌のことも考えて食べる必要があるのです。その腸内細菌の食べ物をマック(MACs=Microbiota-accessible carbohydrates)と言います。
大腸に届き腸内細菌に利用される炭水化物(糖質+食物繊維)のことです。

マックは、大腸で腸内細菌のエサになります。
人は、腸内細菌と共同して身体の恒常性を保っているとされています。
腸内細菌にしっかり働いてもらうためには、腸の有用細菌のエサであるマックを意識的にたべることが重要なのです。

腸内細菌は食べ物が無くなると、腸管の粘液(ムチン層)を食べます。すると、腸に傷がつき、消化管のバリアを破壊してしまうのです。

そうならないように、エサとなる食物を食べてあげる必要があります。
その代表的な栄養素が「水溶性食物繊維」です。
イヌリン、β-グルカン、レジスタントスターチ、ペクチン、グルコマンナンなどです。

腸内デザイン
食べ物によって腸内細菌叢を良くすること


腸内細菌を適切に増やすことが重要です。
腸内細菌は、極めて重要な存在なのです。
その腸内細菌は、エサを食べると増殖します。
食事によって出現する菌が違ってきます。
腸内細菌叢は、食べ物によって変わるのです。
食べ物で腸内細菌叢を良くすることを「腸内デザイン」と言うそうです。
人間は、腸内細菌と共同して健康を保っているのです。

水溶性食物繊維
を意識的に食べる


水溶性食物繊維を意識的に食べることが大切です。
じつは、水溶性食物繊維は、ただでさえ必要量食べにくい食物繊維の中でもより食べにくいのです。

よく野菜を食べれば食物繊維が・・・と考える人が多いと思いますが、野菜に含まれる食物繊維は、セルロースが多く、これは不溶性食物繊維です。

水溶性食物繊維を含む食品一覧

このページをご覧いただくとご理解いただけるのですが、日々の食生活の中で水溶性食物繊維を継続的に充分量食べ続けるのに適した食品は「大麦」です。
じつは、昔から日本人は水溶性食物繊維を穀物から摂ってきました。
中でも「大麦」は、水溶性食物繊維β-グルカンの量が飛びぬけて多い食品なのです。

そして、もうひとつ、水溶性食物繊維イヌリンを多く含むのが菊芋です。

水溶性食物繊維を
複数種類食べる


腸内細菌の多様性ということがあります。
その人その人によって、腸内に存在する腸内細菌の種類が違うのです。
ですから、マック、水溶性食物繊維は複数種類食べた方が良いとされます。

そして、続けて食べることで、適切な腸内細菌が増えていくようです。


参考文献

以下の本、受講したセミナーなどで勉強した内容を参考に書いた内容です。
※腸科学(ジャスティン・ソネンバーグ&エリカ・ソネンバーグ:早川書房)
※日本人のための科学的に正しい食事術(西沢邦浩:三笠書房)
※大麦食品推進協議会「シンポジウム」
※日本食物繊維学会「受講セミナー」
※他


水溶性食物繊維を理解するうえで参考になるサイト


●e-ヘルスネット
腸内細菌と健康
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html






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